I-OPEN PROJECT

GOOD DESIGN
災害時にも、人が安心できる
モノやしくみを届けたい。
I-OPENER’S STORY
苔縄 義宗
株式会社コケナワ
苔縄義宗さんのプロフィール画像

I-OPENER’S STORY #06

災害時の排泄問題を解決する、軽くて小さい携帯トイレ

平時においては気にも留めていなかったことが、有事の際に大きな問題を引き起こす……。例えば、毎日の排泄行為もそうです。トイレを通じて適切な汚水処理がされる排泄物も、ひとたび災害が発生して水栓トイレが機能しなくなると、処理が滞り、さまざまな問題を引き起こします。そんな社会課題に、画期的な商品で対応しているのが、株式会社コケナワ。ポケットに無理なく入る携帯トイレを商品化し、この度の能登半島地震でも多くの方に利用されました。自然災害の多い日本で、災害支援プラットフォームとなるべく奮闘するコケナワのオフィスを訪ねました。

I-OPENで取り組んだこと
携帯トイレの啓発手法とブランディングを検討
知財の棚卸し、模倣品対策を検討
携帯トイレの意匠出願を検討、海外展開に向けたネーミングを検討
新たな発明創出に向けた検討
知的財産活用
知財のオープンクローズ戦略の実践(ノウハウの秘匿と特許権により保護の峻別)
模倣対策(意匠・商標の活用)
商標権によるブランド保護

人の役に立てなかった悔しさ

Q. まずは、コケナワという会社の概要について、教えてください。

苔縄:コケナワは、もともと新規事業創出や商品開発支援を行うために、2017年に立ち上げた企画設計会社です。私自身のキャリアとしては、高校卒業後にトヨタ車体という会社でトヨタ車の規格設計を担当し、そこでビジネスのいろはを学びました。その後は、営業会社や人材派遣会社、テレビ局の構成作家などを経て、コケナワの起業に至ります。これまでは他社の新規事業支援が中心でしたが、「ぽけっトイレ」を作ったことで私たち自身がメーカーになり、それを機に災害支援をテーマにしたプラットフォーム企業として活動しています。携帯トイレ「ぽけっトイレ」の他、折りたたみ便座の開発や、災害時に支援物資を受け取りたい人と送りたい人をマッチングするサイト「デジタル大使館」などを運営し、この度の能登半島地震でも活用されています。

コケナワの事業に共感した地元メーカーが、所有するビルをオフィスとして貸与し、入居している。倉庫スペースには災害支援物資がぎっしりと積まれていた。

Q. なぜ携帯トイレを開発するに至ったのでしょうか。

苔縄:2011年の東日本大震災当時、私はまだ19歳で、仕事を休んでボランティアに行くこともできず、何も力になれない自分に不甲斐なさを感じていました。ですから、次に大きな災害があった時は、仕事を休んででも手伝いに行こうと決めていました。そして2019年10月、台風19号によって長野県の千曲川が氾濫し、大きな被害をもたらしました。その時、真っ先に現地にボランティアに行ったのです。そこで、思ってもみなかった被災地のトイレ問題に直面しました。建物は倒壊してトイレが使えず、自衛隊が設置した簡易トイレに頼るしかありません。いつも長蛇の列ができていて、1回のトイレに40分かかる有様でした。ボランティアでさえ困ったので、ここで暮らしている被災者なら尚更。そう思って調べてみると、災害関連死の中に、トイレ問題による死者が約3,000人もいることがわかってきました。衛生環境が悪く感染症にかかってしまったり、トイレに行く回数を減らすために水や食料を我慢してしまい、免疫力が低下するなどです。これは、取り組むべき大きな社会課題なのではと感じました。

コケナワが開発した「ぽけっトイレ」。排泄袋、凝固・脱臭剤、防臭袋、除菌水の4つが同梱され、手のひらサイズに収まっている。

学んだ知識をフル活用して、自社商品を開発

Q. どのように、既存の携帯トイレと差別化していったのでしょうか?

苔縄:実は、最初のうちは自社で作ろうとは思っていませんでした。素材メーカーに掛け合って、新規事業として携帯トイレ開発を提案して回っていたのです。でも、「そんなものは売れない」と、取り合ってくれません。しかし、市場にある携帯トイレ商品をすべて入手し、ひとつずつ検証していくと、どれも大きくて嵩張り、機能も不足しているように感じました。使った後の匂いも気になります。もっと小さく軽く、機能性も高く作れれば、ビジネスとして勝機はあるはず。さらに、携帯トイレの需要は災害時だけではないので、アウトドアや介護など、シーンを広げていけば、市場としてもまだまだ可能性がある。誰も手を上げないなら、自社で開発してみようと考えて、事業を大きく方向転換しました。

私たちには商品開発の経験が多くあったので、商品力だけでなく、生産体制の整備や流通方法、広報活動など、商流をきちんと形作ることの大事さをよく理解していました。「ぽけっトイレ」のケースでは、まず素材メーカーをあたり、薄くて破れにくい素材をアメリカで見つけました。さらに、同梱する消臭袋や消臭剤もさらに性能を追い込み、組み合わせてひとつの商品としてパッケージしました。1cm単位で棚を管理しているドラッグストアで新規の商品を扱ってもらうことは困難を極めるのですが、それを地道に実現して、現在では約5,000店で取り扱ってもらうまでになりました。

通常であれば素材が薄いほど強度も弱くなるが、ぽけっトイレに使用されている素材は力が加わっても裂けることが少なく、汚物が漏れない。

愛を持って支援してくれる人と出会える

Q. I-OPENプログラムに参加した動機や、プログラムで得たものについて教えてください。

苔縄:I-OPENプロジェクト参加のきっかけは、関係者から話を聞いたことです。スタートアップ企業の多くは、知財の専門家を雇う費用もコネもありません。その点、このプロジェクトは、特許庁とソニーがタッグを組み、メンターの方も素晴らしい実績をお持ちの方ばかりです。このチーム構成にまず惹かれました。

実際に参加して感じた一番のメリットは、やはり愛のある専門家と出会えたことだと思います。メンタリングの場で事業モデルや商品に対する見解を聞けるだけでなく、どう進めていくかをサポートしてくれます。実際、私たちを担当いただいた弁理士の戸田裕二先生は、知財戦略について専門的な立場から助言いただいただけでなく、私たちの活動に賛意を示し、ご本人が防災士の資格まで取得してくれました。ここまで他社の事業に愛を持って接してもらえることに感動しましたし、とても心強く感じています。スタートアップにとっては、適切なタイミングで誰と会い、誰と組んでいくかが、生存戦略としてとても大事です。コケナワという企業の転換点で、このプログラムに参加できて本当によかったと思っています。

現在開発中の、組み立て式便座のプロトタイプ。簡易な作りに見えるが、素材の特性を活かして対荷重75kgを実現している。

Q. 今後の展望について、聞かせてください。

苔縄:これまで、さまざまな事業創出や支援を行ってきましたが、防災は、長く続けていける大きなテーマだと思います。人が安心して生活するために、防災用品やインフラを整えていくのは、私が19歳の時に感じた悔しさにもう一度向き合う作業でもあります。防災用品のリーディングカンパニーになり、それだけでなく社会的な信用を集めていける会社として、成長していきたいと考えています。

災害発生時に、救援物資を受け取りたい被災地側と、物資を届けたい企業や個人をマッチングするサービス「デジタル大使館」。すでに多くの物資が、このサイトを経由して届けられている。
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    YELL FROM SUPPORTER

    I-OPEN22以降、折り畳み便座の開発などで知的財産コンサルティングをスタート。コケナワ社は人道支援のデジタル化にも注力しており、能登半島地震時には「ぽけっトイレ」などの救援物資を迅速に提供。I-OPEN22サポーターであった上村輝之弁理士の協力を得て、ビジネス成長と社会貢献の両立を引き続き支援していきます。

    戸田知的財産コンサルティング事務所/弁理士
    戸田 裕二
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    YELL FROM SUPPORTER

    苔縄さんの人柄、防災に対する思いに共感し、製品の設計や啓発方法をご支援をさせて頂きました。プログラム期間中、ぽけっトイレの新規販路の開拓や組み立て便座の設計、新規事業の実施など、矢継ぎ早に事業を拡大されていく姿がとても印象的でした。被災中の方々の生活を支える苔縄さんの防災事業に関わらせて頂けたことを大変嬉しく思います。

    PolicyGarage 理事/デザイナー
    志水 新
苔縄有為さんのプロフィール画像
苔縄 義宗(こけなわ・よしのり)
株式会社コケナワ
代表取締役

1992年、愛知生まれ。高校卒業後にトヨタ車体に入社し、アルファードやボクシー、ハイエースなどトヨタを代表する車種の設計を手がける。その後、営業会社や人材派遣会社の営業、テレビ局の構成作家などさまざまな職を経て、2017年に企画設計を行う株式会社コケナワを設立。2019年に台風19号をきっかけに「ぽけっトイレ」を開発し、防災用品メーカーに。2022年に「デジタル大使館」を開設。株式会社コケナワ代表取締役他、情報経営イノベーション専門職大学の教員、DXアドバイザーなどを務める。座右の銘は、「置かれた場所で咲きなさい」。

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