I-OPEN PROJECT

GOOD DESIGN
持続可能な米作りのために。
六本木のCGクリエイターが
長野で取り組むロボ開発。
I-OPENER’S STORY
日吉 有為
株式会社ハタケホットケ
日吉有為さんのプロフィール画像

I-OPENER’S STORY #08

田んぼの水を濁らせ、除草の手間を軽減する自走ロボット

2020年初頭より世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスは、多くの人の生活を一変させました。今までの当たり前が通じない世界で、新たな環境から新たなビジネスチャンスを生む人たちも出てきました。本稿の主役、株式会社ハタケホットケの日吉さんは、コロナ禍で東京から長野・塩尻に移住。農作業を手伝う中で、課題を見つけ、プロダクト開発に勤しんでいます。柔らかな着想と大胆な行動力から生まれた、新しい知財利用のあり方を取材しました。

I-OPENで取り組んだこと
事業構想に即した知財戦略の策定
社外公開済発明の国内特許出願支援、外国特許出願支援
外国で通用するネーミング開発と商標取得支援
知的財産活用
資金集めや将来の協業先に自社の技術力を可視化するために特許出願を行った。
ブランド構築のために「ミズニゴール」の商標出願検討(商標登録第6572980号)、「シカニゲール」の商標出願検討(商標登録第6572981号)を行った。

田舎に来てみたら、課題だらけだった

Q. まずは、ハタケホットケの発足に至る経緯を教えてください。

日吉:僕は塩尻に来るまで、20年以上東京に住んでいました。六本木で建築関係のCGの会社の代表をしていて、寝ずに仕事をすることも当たり前。激務に慣れきっている生活でした。しかし2020年の春、コロナが猛威を振るう中で、一時的な疎開のつもりで長野に来てみると、すっかり見える景色が変わりました。塩尻は春から秋までずっと気持ちよく過ごせ、仕事に追い立てられることもありません。東京だと生きることと働くことがイコールでしたが、ここでは自給自足の生活をして、お金を稼がずに生きていくこともできる。その現実にハッとしましたね。

そんな折、友人の田んぼの草取りを手伝いました。8人がかりで、3時間かかって、ようやく田んぼ1枚の除草が終わり。僕にとっては農作業自体が新鮮で、気持ちのいい労働だったのですが、1週間後にはまた草が生えてくるとのことで、除草剤を使わずに無農薬でお米を育てることがいかに大変か、実感しました。聞けば、田んぼの水を濁らせることで光合成を邪魔すれば、草が生えなくなると。であれば、ロボットを走らせて水を濁らせれば、除草作業をしなくてもよくなるかもしれない。その発想が、プロダクト開発につながっていきます。

塩尻には縁もゆかりもなかったという日吉さん。一時的な疎開のつもりで来たが、今はこの地で長く暮らしていきたいという。

Q. ご自分や友人たちと使うだけでなく、商品化して世の中に広めようと思ったのはなぜでしょうか?

日吉:農家さんたちだって、農薬を使いたくないのが本音。でも、除草剤を使わずに除草を手作業でやるなら、大変な重労働なんです。こんな苦労をして作ったお米が、1kg数百円で売られている。そんなお米を都会で買って食べて、僕らの生活が成り立っている。その現実を知らなかったことを恥ずかしく思いました。後から学んだことですが、日本の米農家の大半は赤字で、兼業農家です。先祖代々の土地だから守らなければいけないと、サラリーマンをしながら赤字の農業を何とか続けている。そんな犠牲の上に、ご飯がいつでも手に入る都会の生活が成り立っているわけですね。昔から、いつか社会課題を解決するような仕事をしたいと思っていましたが、それは世界の果ての貧しい国に行かないとできないと思い込んでいました。でも、いざ日本の地方に行ってみると、課題だらけ。だから、まずは僕らが毎日食べるお米から、課題を放置せずに変えていきたいと思ったんです。

試して直して、また試す

Q. 商品化に至るまでには、どのような苦労がありましたか?

日吉:塩尻に来て、長野県が運営するコワーキングスペース「スナバ」に入居したことから、人のネットワークが一気に広がりました。スナバが主催する半年間のビジネスブートキャンプでアイデアを固め、発明家の友人に話をすると、すぐに試作機を作ってくれて。ベビーカーの車輪を活用したラジコンのようなもので、コントローラーで走らせます。しかし、試運転をしてみると、4輪では上手に舵が切れないことがわかりました。改善策を考えて、初年(2021年)度は10台が完成。翌年度は50台作りましたが、モーターのトラブルにより最後まで走れたのは30台。今度は強力なモーター探しに取り掛かりました。プロダクトと言っても新しく開発できる予算はないので、既存の部材をamazonで探したり、中国にオーダーしたり。今期は日本製の良いモーターが見つかり、ようやくモーターの課題も対策が見えてきたところです。このように、少しずつ改良を重ねながら開発を続けています。

田んぼの中を走り、水を撹拌して濁らせることで、雑草が生えるのを抑えるロボット「ミズニゴール」。ヴィヴィッドなカラーリングが田んぼで目立つ。

日吉:市場性を確かめるためにクラウドファンディングも実施しました。試作機を各地の農場で使っていただきながら、要望をヒアリングし、改善をして。農機具メーカーの開発プロセスのようなものですね。2022年の秋に通信系のモノづくりに長けた人と出会ったことで、GPS制御の可能性も見えてきました。2023年に予約を受け付けたところ、ラジコン版より予約数が多く、期待も感じています。しかし、GPSで田んぼの範囲を数十センチ単位で制御するのが難しく、リリースまでには至りませんでした。2023年の夏頃に、自動運転制御のオープンソースのシステムがあることを知り、開発期間がグッと縮まって現実味が高まりました。現在、開発の最終段階で走行試験を行っています。

水を攪拌する緑のスレッド。硬すぎると稲を傷つけ、柔らかすぎると水が濁らない。今の形状も素材も、すべて試行錯誤の上にたどり着いたもの。

自社では依頼できない充実の内容

Q. I-OPENプログラムに応募した動機や、プログラムで得たものについて教えてください。

日吉:スナバのスタッフから「ソーシャルビジネス創業支援金が受けられるかも」と助言を受け、補助金を申請したり、その翌月にはハタケホットケとして法人設立をしたりと、準備を進めてきました。そして資金調達の勉強会に参加した際に、I-OPENプロジェクトについて知りました。I-OPENのプログラムでは、コンサルタントの大川真史さんとともにビジネスモデルの整理を行うことから始めました。さらに知財の観点から、やりたいことを守るために何をすべきかをメンタリングを通じて学ぶことができました。ミズニゴールはありものの部材だけで作っているので、知財で守らなければすぐに真似されてしまいます。でも、こちらから特許事務所にお願いしたところで、I-OPENほどの充実したサポートは受けられないでしょう。実際にいくつか特許出願もできましたし、何よりソーシャルビジネスの文脈で、応援いただける方が増えたのが、ありがたかったです。

塩尻市が運営するシビック・イノベーション拠点「スナバ」。取材当日も、起業家やフリーランスなどのメンバーで賑わっていた。

当たり前を疑うことから始めよう

Q. 今後の課題や目標について、教えてください。

日吉:ミズニゴールを改良して、頑丈なプロダクトを作るのが第一。ですが、農機具メーカーになりたいわけではなく、目指しているのはもっと先にあります。いま、農家はまったく人気のない仕事で、耕作放棄地も増えています。生産性を上げるために最新の農機具を入れるには、多額のローンを組まないといけなかったり、農作物の値段を農家が決められなかったりと、これまでの日本の農業が作り上げてきた仕組みが、時代とずれてきているのではと思います。

日吉:農薬を使う農業は、たかが戦後70年の歴史しかなく、将来的には別のあり方がスタンダードになっても良いはずです。そして、ミズニゴールのような新しいプロダクトで生産性を高めて、適正な価格でお米や農作物を売れるような仕組みを作りたい。できたお米を学校給食用に自治体に買い取ってもらうとか、輸出できる体制を整えるとか、やり方はあるはずです。日本が誇れる農業だった米づくりが、こんなに人気のない仕事になってしまったことが悔しいですし、長野に来て自分たちで育てた自然栽培のお米の美味しさに心底感動したからこそ、今の自分の行動があります。そして、環境再生型農業のように、環境問題の解決にもつなげていきたい。いつか社会に役立つ仕事ができたらと思っていたことを、いまようやく、一歩ずつ取り組んでいるつもりです。

  • YELL FROM SUPPORTER

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    YELL FROM SUPPORTER

    メンタリング初日に、日吉さんから伺った日本の農業の課題を解決するというビジョンに、私も一消費者として共感致しました。
    安全な農作物の生産を持続的に行える農業を実現して欲しいという思いから、会社の強みを整理し、その強みを生かすための知財戦略と補強方法について協議しました。

    薫風国際特許事務所
    弁理士・中小企業診断士
    北野 晃浩
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    YELL FROM SUPPORTER

    社会課題を対象とする事業ではビジョン先行になりがちですが、日吉さんが「美味しい無農薬米をもっとラクして作りたい!」という初期衝動を発信し、仲間やファンを増やすというアプローチで私も楽しく参加しました。これからも製品やサービスを磨き知財を戦略的に活用して事業推進される事と思います。応援しています!

    ウイングアーク1st株式会社
    データのじかん 主筆
    大川 真史
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日吉 有為(ひよし・ゆうい)
株式会社ハタケホットケ
代表取締役

1973年埼玉県生まれ。有限会社ヴェイパートレイルほか、数社の代表取締役。大学卒業後にミュージシャンを志し活動。27歳で3DCG制作者として独立し、港区六本木に「有限会社ヴェイパートレイル」を設立。コロナ禍での一時避難を目的に、2020年5月に長野県塩尻市に移住。農家が直面する課題を目の当たりにし、株式会社ハタケホットケを設立。「ミズニゴール」「シカニゲール」などのオリジナルプロダクトのほか、ミズニゴールで作られた米の直販など、従来の農家の枠を超えた活動を行なっている。

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