I-OPEN PROJECT

GOOD DESIGN
明日を変える知財のチカラ
美しく咲いた花の命を、
無駄にしないために。
フラワーロスへの挑戦。
I-OPENER’S STORY
松村 吉章 代表理事
大槻 佐和子 理事
一般社団法人フラワーライフ振興協議会
一般社団法人フラワーライフ振興協議会のプロフィール画像

I-OPENER’S STORY #13

規格外の花に、新しい活路を見出す

すでに一般化しつつある「フードロス」という言葉と比較して、まだまだ知られていない「フラワーロス」という問題。日本では実に年間10億本もの花が、十分に活用されることなく、その生命を終えています。この課題に正面から挑むのが、一般社団法人フラワーライフ振興協議会です。花き流通業のプロフェッショナルが業界全体を巻き込み進める、フラワーロスへの認知や関心を社会に広げる活動と、その未来についてご紹介します。

I-OPENで取り組んだこと
活動の取り組み整理と言語化
知的財産活用
「スマイルフラワー」の商標登録によるブランディング

市場基準を満たせない花たち

Q. まずは、フラワーロスという社会課題の現状について教えてください。

松村:花の世界は食品と同様に出荷基準が厳しく、その基準に満たない花は規格外品として廃棄されます。生産される花のうち実に15〜20%が規格外品となり、そのほとんどは生産者さん自らの手で廃棄処分されてきました。また、規格を満たしても、原価高騰や競り値の下落などで、出荷コストが見合わない場合は廃棄せざるを得なくなります。

代表理事の松村さんは、全国で約100の営業拠点を営む株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーションの代表でもある。長年、花に携わる事業をしてきたからこそ、フラワーロスの問題も見て見ぬ振りができなかったという。

大槻:規格外といっても輪数不足や花弁の不揃い、茎の曲がりや傷など1輪の花としてみれば尊く美しい花です。しかし規格に満たないという理由で、年間7億6000万本もの花々が出荷できずに廃棄されています。また店頭での廃棄や装花イベントを行った後の廃棄など、合計年間10億本にものぼります。このように、花が廃棄されてしまうことをフラワーロスと呼び、近年社会課題として注目を集めています。

ステイホーム中、人々は花を必要とした

Q. 協議会の立ち上げの背景ときっかけについて、教えてください。

松村:直接のきっかけは、新型コロナウイルスでした。店舗の休業要請や、結婚式、お葬式といったイベントがキャンセルされたことで、最も花の需要が多い春に花の行き場が突然、消えてしまいました。競り価格が暴落し、出荷するほど赤字になってしまうため、生産者さんは泣く泣く廃棄せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのです。

大槻:2020年4月7日に緊急事態宣言が発令され、出荷できない状況に陥った生産者さんたちから、日々刻々と窮状を伝える連絡が入っていました。ご縁のある生産者さんが苦しんでいること、そして本来ならば出荷できる美しい花たちが廃棄されようとしていることに心を痛め、居ても立っても居られずSNSでその状況を伝え、助けを求めました。すると、驚くべきことに一晩で約800件ものコメントが殺到し、共感と支援したいとの申し出が相次いで寄せられました。このことに勇気付けられ、意義ある取り組みだと確信して、急遽スマイルフラワープロジェクトを立ち上げるに至りました。

緊急事態宣言後、わずか2日で立ち上げられた「2020スマイルフラワープロジェクト」のサイト。地元のイラストレーター・由宇さんから提供いただいた絵がトップを飾る。https://jfc.thebase.in

大槻:フードロスはSDGsの達成目標のひとつとして、法整備も含め具体的な解決に向けた動きが進んでいるのに対し、活動を始めた当時、フラワーロスはその言葉自体がまだ一般にあまり知られていない状況でした。また、業界構造としてロスの発生は容認せざるを得ないという認識が生産者さんの側にもあり、触れること自体が難しい課題でもあったため、取り組みを始めることへの葛藤もありました。しかし、これまで注目されていなかった部分に光を当て、本気でフラワーロスという社会課題の解決に総合的に取り組むアクターとして、私たちが果たすべき役割があると感じました。

松村:このタイミングで素早く事業体規模でフラワーロスの解決に乗り出す動きができるのは私たちしかいないという使命感のもと、緊急で活動を始めました。そして、その年の9月には一企業の取り組みに留まらず、より公益的、広域的な取り組みとするべく全国協議会としてフラワーライフ振興協議会を立ち上げ、農林水産省からの事業を受託して全国での花き需要活用拡大のための取り組みを実施しました。

日本各地の空港や世界遺産など、多くの人が行き交う場所で、その地域の花を使った展示イベントなどを実施した。写真は、富山県内の国宝・瑞龍寺で開催した展示イベントの様子。地元生産者の花を買い上げてイベントを飾り、使用後は来場者に配布した。

Q. 協議会の立ち上げ後、どのような展開がありましたか?

松村:「花を救いたい」「生産者さんを助けたい」という思いで始めたことでしたが、結果として時流と合致し、営業は一切していないのですが取材の依頼や一緒に取り組みたいというお声掛けを驚くほど多くいただきました。そのひとつが、2022年からお付き合いしているフレッシュネスバーガーさんです。創業時よりお客様へのおもてなしの一貫として、店舗内の各テーブルに一輪挿しの花を飾っており、生産者さんの規格外品を全量買取してご採用いただいています。

大槻:茎の曲がりや傷で規格外扱いになる花でも、店舗の一輪挿しであれば茎を短く切るので問題になりません。さらに、茎が短ければ物流コストも下がりますし、直送することで通常より新鮮な状態で店舗にお届けすることができます。

フレッシュネスバーガー各店に置かれているガーベラの一輪挿し。テーブルスペースを邪魔しないサイズ感だが、生花があることによる空間の華やぎは大きく、SNSに投稿され評判となっている。閉店後は冷蔵庫に保管するなど、花の命を最大限に伸ばす工夫もされている。

松村:このように、規格外品を上手に活用することで、正規品と変わらないどころか、むしろ正規品よりメリットを出すこともできるんです。松村家の家訓のとおり「三方よし」〜生産者の持続可能な経営を支え、参画企業の価値を向上させ、命の価値へ目を向け笑顔の輪を広げる〜の持続可能なスキームを構築できました。

大槻:フラワーロスの中でもとりわけ規格外の花に注目したことは、課題として認識されていなかった社会可能性の発見でもありました。またこれまで届けられる機会がほとんどなかった消費者の感謝や喜びのお声を、直接生産者さんにお届けできたことの意義と可能性は大きいものでした。今後は、想いを共有できる企業との共創の取り組みを、より広げてゆきたいと考えています。

もっと、花を楽しむ人生を

Q. I-OPENプログラムに参加して得たものについて、教えてください。

松村:この取り組みを始めた当初は、困っている生産者さんや命が失われゆく花たちを救うことに精一杯でしたので、想い優先の手探りで走り続けてきました。しかし、I-OPENプロジェクトに参加したことで、取り組み内容を整理していただき、想いが言語化され、自分たちの活動の持つ社会的な意義や価値に対し、理論的な裏付けを得た感覚がありました。特に「スマイルフラワー」という名称を商標登録できたことで、スマイルフラワープロジェクトという私たちの活動に一定の理解が得られ、ブランディングに寄与できたことは大きかったと思います。

大槻:他にも、専門家の先生のお力を借りて、これまで力不足でもどかしく思っていた大手企業との協業を視野に入れた契約書の整備や、ビジネスモデル特許の調査と検討など、私たちだけではできなかったことを進められました。I-OPENに参加させていただいたことに、感謝しています。

大槻さんはI-OPENプロジェクトに参加するまで、知財は権利や利益を囲い込み独占する閉じたものと捉えていたが、知財が想いや意義を正しく伝え広め、ともに課題解決に取り組む仲間を増やすための開かれたツールとなることを学んだ。

Q. 今後の活動内容や目標について、聞かせてください。

松村:私たちは、フラワーロスという社会課題の解決を目指しつつ、その根底に、もっと花を楽しみ慈しむ文化そのものを広げていきたいと思っています。社団法人として大学などと連携し、花がもたらす効果・効能についての研究も進めています。Forbes JapanのXtrepreneur Award 2025にもノミネートいただき、社会にインパクトをもたらすアクターとしてご評価いただけたことも、ありがたいことでした。花を事業として営み花に支えられてきた人生として、私たちが恩返しできることはもっともっとあるはずだと信じて、これからも活動を続けていきます。

大槻:社会的責任として事業活動を通じて生産者さんを守ることを超えて、知財を活かすことで共有価値を創造し、多くの賛同者のみなさまとその価値や意義を分かち合いながら、解決に向けた実践をしていけることを嬉しく思います。知財によって社会により認知されやすくなり、社会を変える取り組みとして花と笑顔が広がってゆくことを期待しています。これまで以上に多様なステークホルダーのみなさまとの共創を進め、花のある豊かな世界を実現してゆくことが私たちの目標です。

  • COMMENT FROM PARTNER

    COMMENT FROM PARTNER

    齋藤健太朗さんのプロフィール画像

    フレッシュネスバーガーは「大人がくつろげるバーガーカフェ」というコンセプトを掲げ、家にお招きするようなホスピタリティでお客様をお迎えすることを大切にしてきました。大事な人を招くときに用意するものといえば、お花。ですから、外構にプランターを置いたりテーブルに一輪挿しを飾ることは、創業当時から続けていた試みでした。

    新型コロナウイルスによって経営を根本から見直すことになり、私たちは原点に立ち返って、商品・サービス・空間の3つをより大事に考えるようになりました。そして、お花も食材と同じように本部から一括手配することにし、仕入れ先を探す中でフラワーライフ振興協議会と出会いました。飲食店において取り組める社会課題は多くない中、フードロスと同じようにフラワーロスという問題があることを認識し、私たちとしても積極的に関わるべき課題だと思ったのです。

    この活動を続けて、すでに4年目。お客様から「テーブルにお花があって癒されました」「いつ行ってもお花があって良いですね」と、定期的にお声を頂戴しています。ひと手間を惜しまず、提供するものに愛情を注ぎたいと考えている私たちの店舗にとって、ガーベラの一輪挿しはもはや欠かせないもの。これからも長く続け、さらに積極的に発展させていきたい取り組みです。

    株式会社フレッシュネス
    代表取締役社長
    齋藤 健太朗
  • YELL FROM SUPPORTER

    丸橋裕史さんのプロフィール画像

    YELL FROM SUPPORTER

    フラワーロスという概念が広く認識されるようになったのは、花を取り巻く現実に向き合い続けたフラワーライフ振興協議会様の尽力あってこそです。I-OPENプロジェクトを通じて、「愛でられずに捨てられる花のない社会」の実現に、また一歩近づいたことを心より嬉しく思います。この輪がさらに広がることを心より願っています。

    多摩美術大学/丸橋企画株式会社
    丸橋 裕史
  • YELL FROM SUPPORTER

    知念芳文さんのプロフィール画像

    YELL FROM SUPPORTER

    フラワーライフ振興協議会様の挑戦により、これまで価値が見出されにくかった花々に新たな命を吹き込まれたことに感銘を受けました。
    協業促進の契約書を整え、「スマイルフラワー」の商標登録を支援させていただき、活動が確かな形となるのを実感しました。
    持続可能な社会を築く大きな一歩となることを心より願っています。

    メリットパートナーズ
    知念 芳文
一般社団法人フラワーライフ振興協議会のプロフィール画像
(左)松村 吉章(まつむら・よしあき)
(右)大槻 佐和子(おおつき・さわこ)
一般社団法人フラワーライフ振興協議会

(松村氏)創業151年を迎える株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーション代表。富山県で明治7年から続く、青果物と花の卸売業を営む家に生まれる。母に言われ、余った花をよく学校に持って行き飾ったことから、小学校時代のあだ名は「花まつ(花を持ってくる松村)」。家業の卸売業を引き継ぎ小売業へ転換、三方良しを大切にする家訓を活かし事業展開。2027年に100周年を迎える阪急電鉄の花事業、2025年に創業50年となった日本で唯一の高級バラ専門店「ROSE GALLERY」を事業継承し、グループ全体で約100の営業拠点を展開している。2020年9月、「スマイルフラワープロジェクト」の発起人である大槻氏とともにフラワーライフ振興協議会を立ち上げ、年間10億本といわれるフラワーロスの問題に取り組む。SDGsの持続可能な開発目標が誓う「地球上の誰一人取り残さない」(leave no one behind)に倣い、「一輪の花も取り残さない」(leave no flower behind)ことを目標に掲げ、花のある豊かな暮らしを提案している。

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