- 地域の人と人をつなぎ、
孤立なき社会の地図を描く。 -
- I-OPENER’S STORY
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清水 義弘 代表取締役和田 菜水子 広報・遊牧担当
ためま株式会社
I-OPENER’S STORY #14
仕事の都合で、見知らぬ土地に転勤する。子どもが生まれ、生活リズムが激変する。そのたびに、地域社会との距離が遠のき、時に孤立を感じてしまうことがあります。近所にどんなコミュニティがあり、どんな催しものがあるのか。それは、今の自分が参加できるものなのか。かつては回覧板や紙のチラシで出回っていた情報を、スマホひとつで確認できるようにし、地域と人を結びつけるアプリ「ためまっぷ」を開発したのが、ためま株式会社です。すでに50以上の地方自治体や民間団体に導入され、地域ごとの人のつながりを創出。みんながほしかった、でも形になっていなかったサービスを実現させた背景には、どんな意思があるのか。代表の清水さんと、広報担当の和田さんにお聞きしました。
- I-OPENで取り組んだこと
- 事業コンセプトを再整理し、活動の本質を言語化。NX(Neighborhood Transformation)と提唱。
- 知的財産活用
- 独自機能の特許や「NX」の商標を戦略的に活用し、サービスの信頼性とブランド再現性を担保。導入判断を後押しした。
「ここで生きててよかった」と思えるように
Q. まずは、「ためまっぷ」のサービス概要と、その特徴について教えてください。
和田: ためまっぷは、地域のイベント情報や生活情報などを、オンラインで探せるWebアプリです。大阪府貝塚市で展開している「ためまっぷかいづか」を例にとると、まずサイトのトップには本日開催される地域のイベント情報が画像として並んでいます。紙のチラシのデータがそのまま載せられて、投稿する側にとっても手軽ですし、宣伝したくても届けられなかった層にリーチできます。また、天候などでイベントが中止になった場合も、ためまっぷ上で知らせることができるというメリットもあります。特徴は、自分がいる場所から半径500m(徒歩圏内)、2km(自転車圏内)、5km(車圏内)など、距離別でイベントを検索できること。「少しだけ時間ができたから、今から近くのイベントに行ってみよう」。そんな使い方ができ、地域住民と地域活動を結びつけています。
この日は、貝塚市役所の職員向けに、ためまっぷの概要と使い方を説明するワークショップを開催。職員から市民にWebアプリを案内するシーンを想定して、さまざまな質問が飛び交っていた。
清水: 私たちが目指しているのは、社会的孤立をなくして地域に人のつながりを取り戻し、「ここで生きててよかった」と思えることです。2014年に創業し、最初は地道な営業活動をして、利用者を少しずつ広げていきました。2018年から全国の自治体にサービスを提供できるようになり、今では全国50以上の地方自治体や民間団体に導入いただいています。
和田: イベント参加率が、ためまっぷ提供後に1.5倍になった地域や、このサービスがあることで転出を思い直したという住民の事例もあります。利用者の方から嬉しい声を聞くことが、私たちにとっての励みにもなりますね。
Q. 「ためまっぷ」の着想のきっかけについて、教えてください。
清水: それは、自分の子育て経験にあります。その頃は関東で暮らしていましたが、子どもをのびのびと遊ばせることができていないと感じ、近所に頼れる人もいなくて社会から孤立してしまったかのようでした。その後に東日本大震災が起きて、気仙沼にボランティアをしに行ったのですが、被災者であるおばあちゃんたちがしきりに私たちボランティアに感謝してくれるのを見て、「ここには人間的で温かい人のつながりがあるのに、都会の暮らしにはなぜそれがないのだろう」と思うようになりました。「これは、日本の未来にとって危機なんじゃないか」「誰かが身を挺してでも、次の未来を作らないといけない」。そう決意して、勤めていた会社を辞めて地元の広島に戻ったんです。
SEとしてニューヨークに勤務していた頃には、9.11も経験したという清水さん。地域コミュニティの崩壊と再生の現場に何度も立ち会ってきた。
清水: 地元の公民館に顔を出すと、地域イベントの告知をしているチラシがたくさんありました。しかし、この配布方法では必要な人にチラシが届くかもわからないし、余れば廃棄されてしまいます。「今日、時間があるから地域活動に参加したい」と思っている人がいても、知らせる術がないのです。私はもともとSEとして企業に勤めていたので、地域活動と地域住民との接点をデジタルの力で作り出せないだろうかと考えたのが、ためまっぷのアイデアの元になりました。
利用者とともに進化する
Q. 利用者からはどんな反応がありますか?
清水: 貝塚市に住む利用者から、こんなリアルな話を聞きました。「結婚を機に引っ越してきたが、土地勘がなかった。育児がしんどいと思うこともあるが、知り合いがいない。行政の地域子育て支援拠点事業からイベントの案内があるが、イベントの雰囲気や家からの距離もわからず、参加しづらかった」。これは、貝塚市特有の課題ではなく、日本全国で起こっていることだと思います。これが今、ためまっぷを利用いただくことで、少しずつ改善の糸口が見え始めています。
「ためまっぷかいづか」は、貝塚市めぐりつながりあい事業の委託を受け、ためま株式会社とNPO法人えーるとで運営されている。
和田: ためまっぷかいづかの場合は、地域子育て支援拠点事業の運営などを行っているNPO法人えーるさんに運営をお任せしています。運営スタッフ自身が利用者でもあり、エンドユーザーの顔もよく見えているため、具体的な改善案が次々と上がってきます。ボタンの位置はここの方が押しやすいといったUX(ユーザーエクスペリエンス)的観点での指摘もありますし、地元の野菜を買える場所やピアノ教室などの習い事ができる場所といった、イベント以外の情報を盛り込むというアイデアも出てきました。私たちとしても、とても助かっています。
NPO法人えーるが運営する地域子育て支援拠点事業。元気に子どもたちが遊び回っている。ここで案内され、ためまっぷの存在を知るお母さんも多いという。
活動の本質を表す言葉を探して
Q. I-OPEN参加のきっかけを教えてください。
清水: I-OPENプロジェクトに参加する前から、取得済みの特許がありました。アプリ上で、自分のいる場所からの距離でイベントを検索できる機能に関しての特許です。これが、自治体への提案時の採択理由としてとても強く、知財の力を実感していました。そこで、この社会課題解決をさらに積極的に進めていくために、専門家のアイデアがほしかったというのがI-OPENプロジェクト参加の動機です。
Q. プログラムの成果や、参加することで得られた学びについて教えてください。
清水: 自分たちだけで長く活動を続けていると、自分たちが成し遂げたいことやサービスの本質的な魅力を一歩引いて捉えることができず、どうしても近視眼的になってしまいます。そんな時にこのプロジェクトに参加したことで、事業のコンセプトを再整理できたのが、とても大きかったです。私たちの活動の本質を端的に表す表現を検討する中で、出てきた言葉が「NX」です。NXとは、Neighborhood Transformation(ネイバーフッド・トランスフォーメーション)の略で、地域社会との関係の再構築を示します。大阪・関西万博でブース出展をした時にもこの言葉を重宝しましたし、海外で投資家に私たちの事業を説明した際にも、この言葉があることでスッと全体像を理解していただけたのが印象的でした。
和田: そして、この「NX」の商標を、代理人を使わずに自分たちで出願できたことも、大きな成果でしたね。私たちのような小規模事業者が、費用を抑えて知財活用を図っていくために、自分たちの手で知財出願を進めることは重要でしたし、自信にもつながりました。
広報のみならず、遊牧担当として世界を股にかけ活動している和田さん。世界各地のコミュニティのあり方を肌で感じ、ためまっぷにフィードバックしている。
嘘がないものを作っていきたい
Q. 今後の目標について、聞かせてください。
和田: まずは、このNXという概念を広めること。国内だけでなく、世界にためまっぷの活動を広げていきたいと思っています。そのために、アプリサービスとしてもっと改善が必要で、ためまっぷかいづかの例のように利用者との対話による改変をさらに進めていければと思います。
清水: それから、そもそも人が地域参加することがどんな良い結果をもたらすのか、そのエビデンスを整理して提示することも大事だと思っています。地域での生きがいづくりや健康寿命に寄与するだけでなく、隣人同士が信頼しあってつながっていけば、もしかすると世界中で起こっている戦争を防ぐことにもなるかもしれません。飛躍し過ぎと笑われてしまうかもしれませんが、ためまっぷはそれぐらいの可能性を持っていると、私は信じています。そのために、派手ではなくても目の前の人の役に立ち、嘘がないサービスを今後も作っていきたいと考えています。
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COMMENT FROM PARTNER
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貝塚は、転勤してくる方が多いという特徴があります。子育て世帯の方が、誰も知り合いのいない状態で引っ越してきて、そのまま孤立してしまうことが地域課題となっていました。NPO法人えーるは子育て支援のための組織として地域子育て支援拠点事業の運営などを行ってきましたが、より積極的な支援をしたいと考えていた中でためまっぷと出会い、貝塚市めぐりつながりあい事業への共同参画をお声かけしました。「地域の孤立をなくす」という理念に共感しますし、清水さんや和田さんにお会いして、そのお人柄にも信頼と心強さを感じました。採択以降は、ためまっぷの持つ機能をいろいろと試しながら、地域の方に利用しやすい形での改善や、利用を促す広報活動も積極的に行っています。3年前からサービス提供を始め、いまでは子育て世代がもっとも使うアプリにまでなりました。今後も、ためまっぷを活用して、貝塚での暮らしをより良く、楽しく、安心できるものにしていきたいと考えています。
- NPO法人えーる
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YELL FROM SUPPORTER

YELL FROM SUPPORTER
I-OPENでご一緒し、地域の孤立をなくす「NX」の挑戦に知財の側面から伴走できたことを誇りに思います。特許・商標によって「ためまっぷ」ならではの価値を守りつつ、今後ますます全国のまちへ羽ばたいていかれることを期待しています。地域に笑顔の輪が広がる未来に向けた皆さまの活動を、これからも応援しております。
- 中村合同特許法律事務所
- 工藤 嘉晃
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YELL FROM SUPPORTER

YELL FROM SUPPORTER
“思わず巻き込まれてしまう”──そんなお二人、そんな会社がためまっぷです。大阪・関西万博出展の知らせも軽やかに誘ってくれる、その人を信じきるような愛らしさ。人を大切にする彼らなら、世界をきっとよりよく変えてくれるはずです。応援しています。
- 株式会社 東北博報堂
- 栗原 渉

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(左)清水 義弘(しみず・よしひろ)
(右)和田 菜水子(わだ・なみこ) - ためま株式会社
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(清水氏)地域力創造アドバイザー。2013年まで、SEとして関東や米・ニューヨークで就業。ニューヨークでは9.11同時多発テロを経験。帰国後は3.11東日本大震災も経験し、ボランティア活動による気づきをきっかけに退職。広島に帰郷し、国内各地の地域活動を調査する中で、地域活動の情報流通をデジタルの力で解決するサービスを着想。ためま株式会社を設立し、2014年に「ためまっぷ」をローンチ。2018年に全国の自治体に向けてサービスを開始し、現在に至る。
(和田氏)広報・遊牧担当、ためまっぷPRキャラクター。音楽大学卒業後、宮城県石巻市へ移住し震災後のコミュニティ支援を行う。地元・広島での災害を機に広島に戻り、社会福祉協議会職員として災害後の生活支援に従事。清水氏と知り合い、ためま株式会社にサービスリリース時から関わる。広島版人間力大賞(Hiroshima Awards 2017)広島県知事賞・グランプリ受賞。第31回人間力大賞(青年版国民栄誉賞)ファイナリスト。



