- 被災地の木から糸を紡ぎ、
暮らしに役立つものを作りたい。 -
- I-OPENER’S STORY
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片桐 紀子 代表取締役
株式会社リグノエッセンス
I-OPENER’S STORY #15
銀行員として社会人生活をスタートし、地域の困りごとの解決に奔走してきたI-OPENERの片桐さん。福島県いわき市出身の祖父との思い出から、福島の復興に自分も貢献したいと、自身の会社を設立して未利用木材を活用したプロダクト開発に取り組んできました。現在取り組んでいるのは、日傘づくり。木で傘を作るとは、これいかに? 知財活用、プロダクトデザインなどさまざまな要素が組み合わさりできあがった、リグノエッセンスのユニークなプロダクトとアイデアについて、取材しました。
- I-OPENで取り組んだこと
- 経営デザインシートを活用して事業コンセプトを整理し、事業ロードマップを策定。
- 知的財産活用
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傘に関する意匠動向調査。
新社名の策定と商標登録を完了。
被災地復興のために、“私”にできることは何か
Q. ご自身の経歴と、現在の活動に至る歩みについて、教えてください。
片桐: 私はもともと銀行員で、その後も上司が立ち上げた人材派遣系の企業に移り、地域の課題を解決する仕事をしていました。家族の介護のために仕事を辞め、それもひと段落して自分の時間ができた時、誰かの役に立つ仕事がしたいと改めて感じました。2023年に福島県を訪ね、東日本大震災から多くの時間が過ぎたにもかかわらず、まだまだ復興の途上にある状態を目の当たりにして、ショックを受けました。私のことを可愛がってくれた祖父が福島県いわき市出身だったこともあり、祖父のことを思い出したりもして、次第に福島の復興に携われることを自分の事業にしようと、決意が固まりました。
Q. 視察で何を発見したのでしょうか。
片桐: 福島の視察で私が着目したのは、未利用木材です。福島は林業が盛んな土地ですが、曲って育ってしまい建材に適さなくなった木や、まっすぐの木でも幹以外の枝葉の部分はほとんど捨てられてしまいます。華道に親しみ、曲がっている枝もそれを味として美しく生けられると思っていた自分としては、この未利用木材を上手に活用したいと考えました。そこから、商品開発の長き道が始まったんです。
会社員時代には待機児童問題を解決すべく、新規事業として保育園の開設も手掛けたという片桐さん。2023年に福島イノベーション・コースト構想に参加して被災地を視察し、未利用木材を活用するという着想を得た。
片桐: はじめに作ったのは、「ガチャガチャ」や「ガチャポン」と呼ばれるカプセル型自動販売機の、カプセル部分です。通常はプラスチックで作られるこの容器を、再生パルプに変えてデザインし、試作品を作りました。これは世界包装機構主催のワールドスター2025で「ワールドスター賞」を受賞するなど、一定の評価を得ることができました。(「ガチャガチャ」、「ガチャポン」は株式会社バンダイの登録商標です。)
年間2億1000万個が消費されるというガチャガチャの容器を、未利用木材を活用した再生パルプで制作。
「なぜ自分がやるか」の問いを繰り返す
Q. I-OPEN参加のきっかけを教えてください。
片桐: ガチャカプセルを作った時に意匠の出願もしたのですが、取得後にどうするか、何も想定がないままでした。意匠と商標の区別もついていない有様だったので、勉強しなければと思っていた矢先に、知人からI-OPENプログラムの紹介を受け、2024年に参加しました。商品開発としても、ガチャカプセルだけでは広がりを持てず、一人で進めることに限界を感じていた時期だったので、とても助かりましたね。
Q. プログラムで取り組んだ内容について教えてください。
片桐: 最初に、経営デザインシートの作成に取り組みました。過去の活動と未来のありたい姿を整理し、パーパスとビジョンを決めていきます。「本当にやりたいことは何なのか」を自分に問いかけながら、一つひとつ言語化していくのはとても難しい作業でしたが、ふわっとして曖昧だったものを形にしていく大切な工程でした。「なぜ私がやるのか」「それをすることで社会をどうしたいのか」といった大きな問いは、まるで禅問答のようで、挫けそうにもなりましたが、メンターの皆さんに手を貸していただき、なんとか形にすることができました。
木を、傘になる布に変える
Q. 日傘のアイデアはどのように生まれ、制作に向けてどんなことに取り組みましたか。
片桐: 使い捨てのように扱われ社会課題化しているものとして、傘に着目しました。国内で消費される傘の数は、年間で1億3,000万本もあります。傘の素材に未利用木材を活用できれば、福島の復興と社会課題の解決が同時に進められると考えたのです。ただ、パルプを紙にして傘の素材として使っても、傘として機能しません。そこで、メンタリングを通じて訪問した企業からアイデアをいただき、撚り糸から生地を作って傘の素材にするという手法を採りました。
試行錯誤の末にできあがった、リグノエッセンスの日傘。木から生まれた繊維と天然染の色合いにより、やさしい風合いを感じさせる。
片桐: 国内で傘を生地から作れる企業を探して出会ったのが、富士吉田にある舟久保織物さんです。外注ではなく、自ら繊維を扱い生地を仕立てている方でないと、紙の糸で傘を作るという難しいチャレンジは受けてもらえないだろうと考えたのです。代表の舟久保勝さんが、私の突拍子もない相談を親身に受けてくれ、職人魂で素晴らしい商品に仕上げていただきました。
織物づくりと傘づくりについて、舟久保さんに逐一教えてもらいながら進めたという片桐さん。「何としてでも福島の未利用木材から傘を作りたい」というまっすぐな想いが、職人・舟久保さんを動かした。
Q. プログラムの成果や、参加することで得られた学びについて教えてください。
片桐: 事業のロードマップをデザインするという発想自体が自分にはなかったものでしたが、デザインは事業のあらゆる箇所に関わり、事業展開を攻めるにも、資産を守ることにもつながるものだと理解できました。また、商標調査の結果から、今後の展開によっては社名が他者の権利侵害にあたる可能性もあると指摘いただき、思い切って社名変更に取り組みました。これも、自分だけでは見落としていた観点でした。新しい社名の検討、ロゴなどもメンタリング終了後にプログラムを通じてご紹介いただいた専門家の方に提案いただき、スピード感を持って取り組めたのも良かったと思っています。
日傘にも入るコーポレートロゴも、I-OPENでの活動をきっかけに生まれたもの。「木」と「織り目」を連想させるロゴマークがついている。
人に支えられてここまで来た
Q. 今後の目標について、聞かせてください。
片桐: 独立してから続く私のチャレンジは、自分一人で成し遂げたものではなく、皆さんのサポートがあってこそのものです。銀行員時代に上司から、「銀行員は自ら何かを作り出せるわけじゃない。だから、もの作りをしている人を大事にしなさい」と言われてきたことを、改めて実感する日々でした。量産化や販売実績など、まだ多くの課題が残っていますが、自分のやり方で少しずつでも進めていければと思っています。大好きだった福島のおじいちゃんに、「いま福島の木材がこんなに活躍しているよ」と胸を張って報告できるようになるまで、挑戦を続けたいと思います。
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COMMENT FROM PARTNER
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「紙で傘を作りたい」。そんな耳を疑うような相談の電話を片桐さんから受けたのが、始まりでした。傘づくりについてもよく知らないようで私も半信半疑でしたが、すぐにこの工場までいらして、その熱意と切迫感にほだされて、手伝うことになりました。富士吉田の地は、繊維や染め物が盛んで、昔から引き継がれた技術がまだ各地に残っています。今回の試みは、織物を知らない人だからこその発想から生まれたもので、私たちにとっても新しい挑戦です。商品として形にするまでは多くの課題がありましたが、いまは自分ごととして、試行錯誤を続けています。
- 舟久保織物
- 代表 舟久保勝
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YELL FROM SUPPORTER

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福島の復興を願う片桐さんの情熱に心打たれました。試行錯誤の末、「糸の傘」を生み出した片桐さんの行動力には目を見張るものがあります。その志を新しい社名に込め、商標で守りを固めたことで、想いは事業という形になりました。未利用木材が新しい価値として社会で普及する未来を確信しています。
- Authense弁理士法人
- 代表弁理士 五味 和泰
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YELL FROM SUPPORTER

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廃棄されて素材の循環に繋がりにくい傘への思いと、福島の未利用木材を傘生地に活用する着眼点が結び付いたプロジェクトです。製紙した後、糸にして生地を織る工程への模索は日傘に昇華しました。商標登録できた新社名に通底する「木」による風合いを持つ素材という「要素」は事業展開の種になることでしょう。
- プロダクトデザイナー
- 政光 聡

- 片桐 紀子(かたぎり・のりこ)
- 株式会社リグノエッセンス
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銀行員、人材派遣会社勤務を経て、2024年に株式会社konohanaを設立。2023年に福島イノベーション・コースト構想に参加し、福島を視察。プログラムの支援を受け、未利用木材でガチャカプセルの代替品を作り、日本包装技術協会主催の2024 日本パッケージングコンテストにて「包装技術賞 包装アイデア賞」を受賞。また、世界包装機構主催のワールドスター2025にて「ワールドスター賞」を受賞。2024年にI-OPENに参加し、株式会社リグノエッセンスに社名変更、新たなプロダクトとして未利用木材を活用した日傘を開発。2025年、大阪・関西万博のI-OPENブースにも出展。傘のシェアリングサービス『アイカサ』を運営する株式会社Nature Innovation Group からも、事業化に向けた経験共有を得た。今後は行政庁でのレンタルや民間企業とのタイアップなども予定している。



